2020年09月20日

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 ヴァロンタンは子どもの頃、尋常ではないレベルで勉強ができなかった。母親で、ディディエの妹のクリスティンが、そのせいでどんなに心配していたか。傍目で、しかもバカンスの時たまに会うだけでも、胸が締め付けられた。中学生になっても、ヴァロンタンの宿題は全部クリスティンがしていると、甘やかしすぎではないかとよく非難されていた。特に算数ができなくて、知り合いに家庭教師を頼んでいたこともある。クリスティンは必死だった。ちゃんと進学させて、ヴァロンタンが望むような仕事に就けるよう、あちこちに電話して学校や先生を探し、ツテをつくって足を運んで・・・・・・
 あまりにも成績が悪いから、本当に人生どうなっちゃうんだろうと、真っ暗闇のように遠くからは見えていた。そのヴァロンタンが、高校に入学したばかりのある日、ディディエの実家に電話をかけてきた。たまたまそのとき私は一人で留守番をしていて、そんな義務もないのになぜか受話器を取った。フランス語だって完璧には聞き取れないし、バカンスでしばらく滞在しているだけの私に用事があってかけてくる人なんていないし、留守番電話機能だってあるのに。
「アロ(もしもし)?」と私が出ると、
「アロ、ヴァロンタンです」と声が聞こえた。
「あーヴァロンタン、アヤコです。今、誰もいなくて、私しかいないんだけど」
 そういうときっと、かけ直すという話になるだろうと、私はそれだけ言ってもうほとんど電話を切りかけていた。それまでヴァロンタンとそんなに話したこともないし、特に尋ねたいこともない。ところが、
「アヤコか、元気にしてる?」 と、丁寧に挨拶を返してくれたのだ。私も慌てて、こちらの方がずっと大人なのに恥ずかしいと反省しながらヴァロンタンが元気かどうか尋ねて、お互いどうしてるのか短い会話をして、それからヴァロンタンはまたかけ直すといって、電話を切った。
 高校生の男子って、もっとぶっきらぼうで、投げやりなもんじゃないの?用がないんなら切るよっていう風な?しょうもない会話すんなよ、とか、話しかけんな、とか。
 それまでの家族内での噂を総合すると、もう人生詰んでるみたいな話だったのに、私の中でヴァロンタン株が急速上昇した。どういうことなの、勉強はさっぱりのようだけど、めちゃくちゃいい子に育ってるんだけど?と。
 それからの数年も、相変わらずクリスティンが宿題を手伝い続けていたが、結果として、ヴァロンタンはちゃんと必要な卒業証書を手にして、望むとおりの技術系の仕事に就いた。勉強がとんでもなくできなかったのは、結局、主に識字障害を抱えていたせいだったらしく、仕事をする能力には問題がなかった。問題ないどころか、優秀だった。察しがよく、性格も素直で優しい。実は賢い子だった。


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(22:07)

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