2010年09月22日

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35831

写真はピンズマルシェのピンバッジ、トレンチコートのブタと映画のカチンコ。
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六甲山中で夜の車道を歩いていて、その昔、学生時代に岩手の花巻へ旅行したことを思い出しました。


10月の末かそのくらいの季節で、関西地区はまだそれほど寒くなかったのですが、行き先は東北です。
きっと寒いに違いないと信じて、冬用の長いコートを着て行きました。


ところが東北は別に寒くありませんでした。


けれどもコートを脱いでしまうと、小さなコロコロの付いたスーツケースには入らなくて邪魔になりますし、
それに何も羽織らないのはさすがに寒く、
仕方がないので、コートを着たままで移動を続けることになりました。


花巻駅には夕暮れ時に着き、予約していたユースホステルに電話をかけて行き方を確認すると、
大体の道順を教えてくれた上で、不便な場所にあるので最寄りのバス停まで車で迎えに来てくれるとのことでした。

「バス停に着いたら一度、電話してくださいね」と、とても親切、丁寧なお返事だったので、すっかり安心してバスに乗り一番前の席に陣取って、ヘッドフォンで音楽を聴き始めました。


この音楽が間違いの元でした。


バスの一番前にある電光掲示板でずっとバス停の名前を確認していたのですが、うっかり見ていないときにバスが停まって発車し、電光掲示板の表示が次のバス停に変わる瞬間に、まさにそこが私の降りなければいけない停留所だったことを知ったのです。

音楽さえ聴いていなければ、ちゃんと車内のアナウンスを聞いてさえいれば…と歯がみしましたが、後の祭りです。


仕方がないので次のバス停で降りました。そのとき、素直にそこから歩いてひとつ前のバス停まで戻ればよかったのです。そして宿に電話をかければよかったのです。


ところが私はバス停を乗り過ごして無駄にした時間を挽回しようと、電話で教えてもらった宿への道を自力で探すことにしたのです。


降りたバス停からはどっちを向いても畑でした。バスに乗っている間にすっかり日が暮れていたので、大きな畑の向こうの方に、いくつか民家の光が見えていました。大体の見当をつけて、ななめ後ろ方向へ向かう道をスーツケースを引っ張りながら歩き出しました。


そのあとどういう道を選んだのかよく覚えていません。ともあれ行き交う人もいなくなり、だんだんと車道が坂道になっていき、そのうち両側の畑が終わって林になり、林がさらに暗くなって森になり、街灯もひとつもなくなりました。

月夜のでんしんばしらも歩き出しそうな人気のない真っ暗闇の中、車道の白い線だけを頼りにゴロゴロとスーツケースの音を響かせながら歩きました。

街灯がなくなったので、さすがに私も道を間違ったような気がしてきました。


ときどき向こうから車がやってきて、ヘッドライトに煌々と照らされ、眩しくて顔を背けました。

徒歩ではどこにも辿りつけそうもないような、暗い森のくねくね曲がる坂道を、一人でとぼとぼと歩いていて、きっとライトで私を照らしたドライバーは、私のことを幽霊だと思ったに違いありません。


あんまり人を驚かせるのも迷惑になるし、もういい加減に坂道を歩き疲れたので、恥を忍んで宿に電話することにしました。


けれどもそんな山の中で携帯電話はつながりませんし、このまま歩いても道は山の頂上に向かっていくばかりですし、もうずいぶん歩いてしまったけれど元の道を戻るしかないのかどうしたものかと悩みながらまだ先に進み続けました。

すると、向こうにぼんやりと浮かぶ明るい光が見えます。誰か人が住んでいれば道を尋ねられるかもしれないと、光に向かって急ぎました。ところが近づいてみると、そこには建物は何もなく自動販売機が一台あるだけでした。

ただその隣に、公衆電話もあったのです。


そんな辺鄙なところに公衆電話を設置してくれたNTTと神様仏様に感謝しながら宿に電話をかけると、私からの連絡があまりにも遅いので一旦車で迎えに出て、見つからないので戻ってきたという話で、すぐに行くから今どこにいるのと聞かれました。

どこもなにも私にもわからない真っ黒な森の中の道の上だったのですが、自動販売機が唯一の光を放って目印となってくれていたので、どうにか居場所を説明することができました。


しばらく自動販売機の灯りに励まされながら待っていたら、宿の車が迷わずに私の前に来てくれました。

宿のご主人にはすっかり迷惑をかけたのにもかかわらず、大丈夫?と心配してくれて本当に恐縮しました。


花巻の山道のドライバーさんたちも、驚かせてしまって申し訳なかったです。

もしかすると、花巻の山道に、寒くもないのに真冬のロングコートを着てスーツケースを引きずる長い髪の女の幽霊が出るという噂があるかもしれませんが、それは私ですから、もう怖がらないでください。

(23:15)

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